壺齋散人の 美術批評
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ロシアの農奴解放の日:ミュシャのスラヴ叙事詩



(ロシアの農奴解放の日)

ロシアに農奴解放令が宣言されたのは1861年。長年にわたる農奴制を廃止して、近代的な国家づくりをめざしたものと言われるが、実際には、旧態依然たる制度がはびこったままだった。それにミュシャは深い失望を覚えていたが、一抹の希望を託さないでもなかった。

この作品は、農奴解放宣言の歴史的な瞬間を描いたもの。モスクワの赤の広場で、聖ヴァシーリー寺院を背景にして、役人が解放宣言を読み上げているところだ。集まった農民たちのほとんどが無関心な表情を呈しているのは、この歴史的な出来事の意味をよく理解していないからだろう。

聖ヴァシーリー寺院は霧に包まれているが、その背後からは、朝日が昇っている。この朝日にミュシャは、ロシアとスラヴの未来を感じとったのであろう。

(1914年 カンバスにテンペラ 610×810㎝ プラハ、ヴェルトゥルジニー宮殿)



(スラヴ賛歌)

第一次世界大戦の結果、オーストリア・ハンガリー帝国が崩壊すると、その支配下にあったチェコは、スロヴァキアとともに、チェコスロヴァキアとして独立した。この作品は、その独立を祝って制作されたものである。画面上部の両腕を広げているのが新生チェコ、その背後にはキリストが立って状況を見守っている。

手前には、スラヴ人たちの歴史が描かれている。手前から奥にいくにしたがって時代が新しくなっていく。アメリカ国家星条旗が描きこまれているのは、アメリカがチェコの独立に手を貸してくれたことへの感謝の気持ちからだという。パトロンのアメリカ人クレインへの配慮もあったようだ。

(1926年 カンバスにテンペラ 480×405㎝ プラハ、ヴェルトゥルジニー宮殿)


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