壺齋散人の 美術批評
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真珠の首飾りの女:フェルメールの女性たち





「真珠の首飾りの女」は、フェルメールの肖像画の一つの到達点を示すものとして、「手紙を読む青衣の女」「天秤を持つ女」と並んでフェルメールの最高傑作のひとつに数えられている。いずれもフェルメールがもっとも円熟を示した1662-1664年頃の作品である。

一人の若い女が、鏡に向かって立ち、真珠の首飾りをつけて身づくろいしている様子を描いている。女性の表情には、軽度の緊張感と喜びとが合わさっているように見える。その軽い興奮は、首飾りを握る両方の手の動きからも伝わってくる。非常に生き生きとした雰囲気の絵で、肖像画としても、風俗画としても、一流の作品だと言えよう。

構図は、女性を強調する目的から極度に単純化されている。レントゲンで見ると、女性の頭部の周辺に見える壁には、例の地図が描かれていたのがわかるが、これは女性を強調するという目的から削除されたのだろうと思われる。そのことで、女性の姿はいっそう引き立って見えるようになったわけである。

光の処理の仕方は、「青衣」と「天秤」同様、左手の窓から入った光が、女性の姿を浮かび上がらせるように工夫されている。窓の下の、光の当たらない部分は暗黒になっているが、よく見ると、テーブルの上の壺や画面下部の一部に別な方向からの光が当たっているように見える。恐らく当初は、この別の光源によって、画面手前にも明るい部分が構想されていたと思われるが、女性の姿をクローズアップするという目的から、光源は窓からの光に一元化されたのであろう。

色彩的には黄色の強調が特徴である。女性のドレスやカーテンが黄色で描かれているほかに、窓から入った光がカーテンの黄色を反射して、部屋の中を黄色く染めている。黄色が主体になることで、絵は全体として暖かい雰囲気をかもし出している。

女性と鏡の間の距離が長すぎるとも感じられるが、そこは女性の表情に見える恍惚感のようなものが相殺して、不自然な印象をあまり与えない。かえって、女性の前の広い空間が、絵全体にのびのびとした感じを付与している。



これは女性の部分を拡大したもの。首飾りが女性の首に密着して、やや窮屈に見えないでもない。女性は耳にも大きな飾りものをつけているが、これはどんな宝石だろうか。(カンヴァスに油彩 55×45cm ベルリン、国立絵画館)






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