壺齋散人の 美術批評
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フルートを持つ女:フェルメールの女性たち





「フルートを持つ女」は、「赤い帽子の女」とともにフェルメールの真筆に疑いをさしはさまれることがあるが、その疑いの度合いは「赤い」よりも強い。美術家のなかには、「赤い」を真筆として、「フルート」をそうではないとするものもいるが、それは間違いだとするべきである。この二つには決定的な共通点があり、同じような時期に同一の作者によって描かれたと考えるのが自然だからである。

最も重要な共通点は、絵のなかに全く同じ小道具が見られることだ。ライオンの頭をかたどった飾りが、「赤い」のほうでは画面の手前に、「フルート」では背後に見える。これらは椅子の背に取り付けられた飾りと思えるが、全く同じ小道具が二つの絵に登場するのは、作者が同じだと考えるには十分な材料と言える。このほかにも、板の材質がほとんど同じであることや、絵の具の顔料の分析などから、どちらもフェルメールの真筆だとする説が強まった。

フェルメールの真筆だという前提で、絵をよく見てみよう。この絵の女性は東南アジア風の帽子をかぶっている。フェルメールの時代には、オランダによるインドネシア経営が本格化するわけで、これはインドネシアから入ってきた帽子かもしれない。

この大きな帽子のおかげで、女性の顔の大部分が影になっているところは、「赤い」の場合と同じである。「赤い」の女性が、横向きの姿勢から肩越しにこちら側を見つめているのに対して、この絵の女性は、正面からこちら側を見つめている。

女性はテーブルを前に座り、両腕をテーブルの上に乗せている。その左手にはフルートが握られているが、フェルメールのほかのいくつかの絵とことなり、楽器が何らかのメッセージを発することはない。フルートでなければならぬ理由は見当たらぬわけで、ほかの何でもよいという印象だ。

暗い背景の中なら浮かび上がった女性は、顔の一部と上着の大部分に光が当り、その部分がハイライトとなって、絵に躍動感をもたらしている。

色使いも多彩で、暖色を有効に使い、温かみのある色彩感を演出している。



これは女性の顔の部分を拡大したもの。頬や唇を赤く塗り、温度を感じさせる一方、上着の白い部分が暗い部分と著しいコントラストを作り出している。この女性の顔は、「赤い」の女性のそれと、似ているようにも思える。(板に油彩 20×17.8cm ワシントン、ナショナル・ギャラリー)





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