壺齋散人の 美術批評
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ヴァージナルの前に立つ女:フェルメールの女性たち





フェルメールは、楽器を演奏する女性の姿を描くのが好きで、最晩年になってもなおそうした姿を描いた。ヴァージナルを演奏している女性を描いた二つの作品がそれだ。これはその一つ、「ヴァージナルの前に立つ女」である。一人の女性が、ヴァージナルの前に立ち、両手を鍵盤に置きながら、顔をこちら側に向けている。フェルメール好みのポーズだ。

ヴァージナルとは、チェンバロに似た鍵盤楽器で、ピアノの前身といってよい。チェンバロとの違いは、アップライトピアノとグランドピアノの違いとほぼ同じと考えてよい。チェンバロがグランドピアノのように巨大な蓋を戴いて、横に広がっているのに対して、ヴァージナルのほうはアップライトピアノのように縦長で、蓋は小さい。

構図的には、モチーフの女性を画面のほぼ中央に配することで安定感をねらったと見えるが、全体的な印象としては、右半分に対象を集めすぎたことで、画面が左右に分裂した印象を与えないでもない。少なくとも、右手前の椅子がここにあるべき必然性は見当たらないので、これを左にもっていけば、もっとすっきりした構図になっただろうと思える。

部屋のなかの様子は、それまでのフェルメールの絵になじみの深い空間だ。左手の大きな窓から光が差し入り、部屋の中を明るくしている。その光のなかに一人の女性が浮かび上がるようにして立っているわけだが、光源が背後にあるために、女性の表情は大部分陰になっている。「合奏」でチェンバロを弾いていた女性の顔も、陰になって暗かったが、この絵もやはり暗い印象を与える。

壁にかかっている画中画のキューピッド像も、フェルメールの絵におなじみの小道具だ。キューピッドは愛欲の象徴だから、この女性もまた愛欲にかかわりのある寓意を表しているとする解釈もある。それによれば、女性が前にしているヴァージナルは、愛欲とかかわりの深い音楽を象徴しているのだということになる。

画中画はヴァージナルの蓋の裏にも描かれているが、こちらはキューピッド像の左側にかかっている絵と同様に、愛欲とは関係のなさそうな



これは女性の上半身を拡大したもの。女性の顔の陰影のつけ方がやや曖昧な一方、上着は光を浴びて明るすぎるほどに描かれている。それもあって、女性の顔のインパクトが弱まっているといえる。(カンヴァスに油彩 51.7×45.2cm ロンドン、ナショナル・ギャラリー)





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