壺齋散人の 美術批評
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ネーデルラントの四輪馬車:ブリューゲルの風景版画




ネーデルラントの四輪馬車という題名からして、この絵がネーデルラントを描いていることは明らかだ。だがそれにしては不自然なところがある。ネーデルラントは一面が低地帯で、この絵の背景を占めるような山など、どこにもないからだ。

この作品は、ブリューゲルの風景画のもつ特質をよく表しているといえる。ブリューゲルは風景を目の前に広がるそのままの形で描いたのではない、彼にとっては、ネーデルラントの故郷の風景と、イタリア・アルプスで見た雄大な自然の風景とは、矛盾なく同居して、一つの創造的な風景になれるものだった。それはいわば世界風景ともいうべきものだったわけだ。

手前の丘の上から、四輪馬車が坂道を下っていく、それが向かう先にはブラバント地方を思わせる村が広がっている。丘の中腹には十字架が立てられて、その脇にある小さな小屋から住人が外出しようとしている。

この住人をよく見ると、両手で拍子木のようなものをたたいている。この拍子木はクレッペルスといって、らい病患者が持っていたものだった。彼らは外出する際には、この拍子木をたたいて、自分の存在を人々に知らせたのだ。

らい病患者の姿は、油彩画「エルサレムの人口調査」の中でも出てくる。油彩画の方は、人々の住む村の一角にらい病患者の小屋が描かれているが、この版画の中では、丘の中腹に、つまり人里離れたところにある。このほうが一般的だったろうと思われる。





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