壺齋散人の美術批評 |
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灯台の丘:ホッパーの世界 |
「灯台の丘(Lighthouse hill)」と題するこの絵のモチーフは、メーン州のポートランドにあったケープ・エリザベス灯台。この灯台は、地元の漁師のために働いていたが、どういうわけか、撤廃されるという騒ぎがもちあがっていた。ホッパーはその騒ぎの最中にこれを描いた。 といって、ホッパー自身がこの灯台に強いこだわりを持っていたわけではない。かれは1927年に自動車を購入し、その夏にメーン州にたびたびドライヴしたのだが、その折にたまたまこの灯台を見かけてインスピレーションを感じたということらしい。ホッパーは他にも二点、この灯台をモチーフにした作品を描いている。 灯台がメーン・モチーフにかかわらず、それは画面の右端に寄せて描かれており、中心部にはコテージが据えられている。したがって視線はこのコテージを中心に動くことになる。そのコテージは、大部分が影に覆われており、観客に対してフレンドリーな雰囲気ではない。むしろ観客を拒むようなところがある。 第一、このコテージも灯台そのものも、丘の上にそびえるようにたっており、観客はその丘の下からこれらを見上げるような気持ちにさせられる。灯台と観客との間に介在する丘は、ラフなブラシワークでざっくりと描かれる一方、灯台やコテージはかなり入念に描かれている。そこに観客は、ある種の不安定さを感じる。風景画はふつう人をリラックスさせるものだが、この絵は逆に、観客を不安にさせるのである。 なお、下から見上げるような構図は、空中から見下ろした構図の「街」と対極的である。 (1927年 カンバスに油彩 71.8×100.3㎝ ダラス美術館) |
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