壺齋散人の美術批評 |
HOME | ブログ本館 | 東京を描く | 水彩画 | 日本の美術| プロフィール | 掲示板 |
コッブ家の納屋と遠景の家:ホッパーの世界 |
コッブ家の納屋とは、マサチューセッツ州ケープ・コッドにあったコッブ農場の納屋のこと。ホッパーはこの納屋の建物が気に入って、しばらく賃借りした。また、後にはその近くに別荘をたて、以後夏の間、妻のジョーと一緒に過ごした。 コッブ農場は、1929年の恐慌でアメリカじゅうが不景気になったことで放棄された。当時、農村地帯における大規模な離農現象は、あちこちで見られた。スタインベックの名作「怒りの葡萄」は、その時代の離農農民を主人公にしたものだし、また、ウディ・ガスリーのプロテストソングも、その時代の脅迫的な離農をテーマにしたものだ。 「コッブ家の納屋と遠景の家(Cobb's Barns and Distant Houses)」と題するこの作品は、廃墟になりかけていた納屋をモチーフにしたものだ。やや高い視点から俯瞰的に描かれたモチーフは、周囲を雑草に囲まれ、放棄された印象を如実に伝えている。ホッパーはこのモチーフがかなり気に入ったらしく、支点をずらしながら、いくつか描いている。そのなかでこの作品が、構図的にも色彩的にももっともすぐれているといえる。 遠景に見える家は、もしかしたらホッパーの建てたものかもしれない。その家の周囲を含めて、画面の中には人間の姿が見えない。そこにホッパー独自の制作姿勢を感じ取る批評がけっこうある。 (1930-31年 カンバスに油彩 74.0×109.5㎝ ニューヨーク、ホイットニー美術館) |
HOME | ホッパ ー| 次へ |
作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2011-2021 このサイトは、作者のブログ「壺齋閑話」の一部を編集したものである |