壺齋散人の美術批評
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西部のモーテル:ホッパーの世界




「西部のモーテル(Western Motel)」と題したこの絵は、ホッパー馴染みのモチーフであるアメリカの自然と室内の人物とを組み合わせたもの。アメリカの自然は、モーテルの窓越しに見えるのだが、そらはあたかも西部劇のセットのように見えている。だからタイトルのWesternは、ウェスタンではなく西部劇の西部と読むべきなのだろう。

モデルの女性は、窓の外の景色を見ているわけではなく、画面の手前にいる観客のほうを凝視している。こうしたポーズ設定は、自然を背景にした風景画的肖像画の伝統を想起させる。そうした自然を背景にした肖像画は、モナリザ以来の強固か伝統なのである。

モナリザは、観客に向かって微笑みかけているように見えるが、この絵の中のモデルは、感情を表に出していない。そのため、人物画であるにかかわらず、この絵からは人間の呼吸が伝わってこない。モデルはあたかもそこに置かれたマネキンのように静かに座っている。

モデルの静寂さに対応するかのように、窓の外側も静寂な雰囲気に包まれている。女性の向こう側にある自動車までもが、移動の器というより、風景の添え物のように見える。

(1957年 カンバスに油彩 76.8×127.3㎝ ニューヘヴン、イェール大学ライブラリー)



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