壺齋散人の美術批評
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ナポレオンの客船:ドーミエの風刺版画




二月革命はフランスを共和国体制に導いた。新たに憲法が制定され、大統領選挙が行われることになった。その選挙に、イギリスに亡命していたルイ・ナポレオンが立候補する意思を示した。ルイ・ナポレオンとは、あのナポレオン・ボナパルトの甥である。とはいえ、かれはフランスでは忘れられた存在だった。そのかれが、船に乗ってドーヴァー海峡を渡り、フランスに上陸したことで、世間は俄然騒がしくなった。

その騒ぎのなかで、ドーミエが発表したのが。「ナポレオンの客船(Paquebot - Napoleonien)」と題されたこの石版画である。ナポレオンは忘れられた存在だったとはいえ、やはり偉大な皇帝ナポレオンの記憶と結びついており、民衆の間にはあなどれない影響力をもっていた。その影響力をたのんだルイ・ナポレオンの野心に、ドーミエは危険を感じたのであろう。

横顔を見せたルイ・ナポレオンが乗っているのはナポレオン帽、その帽子船を引っ張っているのはナポレオンのシンボルである鷲だ。この絵の中の鷲も、ルイ・ナポレオン自身も、さえない印象で描かれているが、じっさいには、かれは選挙に勝って大統領になり、やがてクーデタによって第二代の皇帝になるのである。

(1848年12月 リトグラフ 25.0×34.0㎝ シャリヴァリ)



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