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わらぶきの農家:炎の画家ゴッホ





ゴッホは1890年の5月にサン・レミを去り、一時パリに滞在した後、同年5月20日に北仏のオーヴェール・シュル・オワーズに移った。ゴッホはここで7月29日に死ぬのだが、その最後の二か月ほどの間に、30点余りの油彩画を描いた。すさまじい創作力である。この絵は、5月に描かれているから、オーヴェールに来て間もなくの作品である。

北仏のオーヴェールは、南仏のプロヴァンスとは、気候が全く違う。この絵にはそうした違いがすぐに感じられる。アルルやサン・レミなど南仏の風景は、明るい太陽を受けて暖かい感じを抱かせるのだが、オーヴェールの風景はそれとはかなり違う印象だ。それをゴッホは、暖色主体の南仏の絵とは違って、ここでは寒色を用いて表現している。

全く寒色だけで描かれていると言ってもよい。ブルーの空を背景にして、グリーンの台地の上に、これ又グリーンの家が建っている。藁ぶき屋根の家というから、すくなくとも屋根くらいは暖かい色で塗ってもよかったはずだ。それをことさらに寒色だけでまとめたのは、オーヴェールの風景にクールな感じを抱いたからではないか。

この絵では、輪郭線が明確に描かれている。それも、直線や曲線をかなり自由に引っ張っている。その一方で、藁ぶき屋根の後ろのほうが曖昧な描き方になっていて、そこにもゴッホの自由奔放さを感じることができる。

(1890年5月 カンバスに油彩 72×91㎝ パリ、オルセー美術館)





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