壺齋散人の 美術批評
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温室にて:マネ




マネは1878年の7月から翌年の4月までの間、友人のスウェーデン人画家ヨハン・ローゼンからアトリエを借りた。そのアトリエには温室が隣接していて、マネはそこでギュメ夫妻の彫像画を描いた。マネはギュメ夫人と親密に交際しており、彼女への友情のしるしとしてこれを描いたのだと思われる。

裕福な夫婦の肖像は、西洋絵画の伝統的なモチーフの一つだった。マネはそのモチーフを同時代流にアレンジしたわけである。夫のほうが妻にやさしく話しかけているのに対して、妻のほうではそんな夫に対して無関心を装っている。これは男に従属していない新しい女を物語っているのだとか、単に傲慢な女だとかの批評が寄せられ、それなりに話題を提供した。

しかしマネは夫婦の絆を強調することも忘れてはいない。その絆はいまにも触れあわんとしている二人の手にはめられた婚約指輪によって表現されている。この指輪をはめた二人の手が、この絵の中心をなしているのである。

マネは夫妻を温室に呼んでポーズを取ってもらったが、夫人を退屈させないように、自分の妻を呼びつけて夫人の相手をさせた。かたわらそんな妻の肖像も絵にした。「温室のマネ夫人」がそれである。

(1879年 カンバスに油彩 115×150㎝ ベルリン国立美術館)




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