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フェルナンド・サーカスのジョングルーズ:ルノワール




ルノワールのアトリエ近くには、フェルナンド・サーカスがロシュシュアール大通りに面して興行していた。そこにルノワールはたびたび足を運んだが、それは画家仲間ドガの影響だったといわれている。ドガは、サーカスや劇場での風俗的な光景を好んで画題に選んだ。

この絵(フェルナンド・サーカスのジョングルーズ Jongleuses au cirque Fernando)の中の二人の少女は、当時人気の軽業師だったアンジェリーナとフランシスカ。ルノワールはこの少女たちをジョングルーズと呼んでいるが、この言葉は吟遊詩人という意味だ。彼女らは、歌も歌ったのだろう。もっともこの絵の中の彼女らは、歌ってはいない。一人は両腕で沢山の林檎を抱えているが、これは軽業のために小道具だろう。全体に暖色優位の、暖かい画面である。

ルノワールはこの作品を、「舟遊びする人々」などといっしょに、1882年の第七回印象派展に出展した。この印象派展は、美術史上エポックメーキングな出来事とされている。単なる展示会ではなく、画家たち自身が自分の作品を売りこむ場として利用したのである。画家たちが画商を介さず、直接売りたてするというのは、それ以前にはなかったことだ。

その展覧会には、ルノワールのほかモネやゴーギャンを含め、併せて九人が出展した。売りたて会のことだから、出展というより出品といったほうはふさわしいかもしれない。ルノワールの作品は、そこそこの需要があったらしい。一方ゴーギャンは、さっぱり売れなかったという。この当時のゴーギャンの絵は、まだ暗い色調で、あまり冴えなかった。

(1879年 カンバスに油彩 131×98.5㎝ シカゴ、シカゴ美術院)




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