壺齋散人の美術批評
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シャルダン:ロココ時代のリアリズム絵画




ジャン・シメオン・シャルダン(Jean-Baptiste Siméon Chardin 1699-1079)は、ロココ時代に活躍した画家であるが、いわゆるロココ風とは一線を画し、静物画や風俗画といった卑近な画題について、極めてリアリスティックな画境を追求した。時代の流れとは離れていたわけである。しかしどういうわけか各方面から高い評価をうけた。ロシアのエカテリーナ女帝が、サンクトペテルブルグの宮殿を、かれの作品で飾ろうとしたことは有名な逸話である。

家具職人の家に生まれ、十代の終わりごろに、歴史画の修行をはじめ、ついで静物画の習得に移った。歴史画は、当時の画家にとっては王道ともいうべき主題であり、それをうまく描くことが、大画家の条件であった。しかしシャルダンは歴史画になじめず、卑近な静物や風俗に関心を移していく。静物画や風俗画は、フランドルを中心にしたそれなりの伝統もあったが、当時のフランスでは、ほとんど評価されていなかった。だから、シャルダンは、フランスにおける、静物画や風俗画の先駆者といえる。フランスにはのちに、セザンヌをはじめとした静物画の流行が起きるが、シャルダンは200年も前に静物画を描いていたのである。

「エイ(La Raie)」と題されたこの作品は、かれの静物画の初期の傑作。この作品が認められて、かれは29歳の若さで王立アカデミーの会員になった。

テーブルによって画面は二つに水平に分割されている。テーブルの上には、エイの干物のようなものがぶら下がっており、その下に、つまりテーブルの表面に小物の魚介類が散乱している。そのさまを猫が眺め渡しているが、その表情からは、飢えはみられない。

暗い背景の中から、エイの姿が浮かび上がってみえるように工夫されている。

(1728年 カンバスに油彩 114×146㎝ パリ、ルーヴル美術館)



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