壺齋散人の 美術批評 |
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聖顔:ルオーの宗教画 |
聖顔をモチーフにしたルオーの絵が、キリストの顔だけをアップで画いたことには、ヴェロニカ伝説が背景にある。前回に述べたように、キリストが十字架を背負ってゴルゴタの丘へと引き立てられていったとき、ひとりの女性が前へ進み出て、布でキリストの顔を拭いた。するとその布にキリストの顔が焼き付いた、というのがこの伝説の眼目だ。ルオーはその伝説を彼なりに斟酌して、布に焼き付いたキリストの顔を描き続けたのだと思う。 通常、ヴェロニカ伝説を絵画のモチーフに選ぶ場合には、キリストの顔が焼き付いた布を持つヴェロニカの姿が前面に出るものだ。それをルオーは、キリストの顔はそれだけを取り出して聖顔とし、ヴェロニカはヴェロニカで、彼女の顔だけをアップにして描いている。そこがルオーらしいところと言える。 この絵のなかのキリストは、黒く塗りつぶされた大きな瞳と長い鼻そして小さな口といった具合に、ルオーの人物の特徴を共有している。また、ヴェロニカの表情とも、双子のようによく似ている。 顔の周囲を白い線で区切っているが、これは布を表現していると考えられる。するとこのキリストの顔は、布に浮かび上がった伝説のなかの顔だと解釈できる。もっともルオーは、絵の周囲を額縁のようなもので区切る癖があるので、これもまたその一例なのかもしれない。 (1945年ころ カンヴァスに油彩 50×36㎝ パリ 個人コレクション) |
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