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十字架上のキリスト:ベラスケスの世界




「十字架上のキリスト」と題されたこの絵は、マドリードにあるサン・プラシド修道院の注文を受けて制作したもの。一応宗教画ではあるが、普通の宗教画とはだいぶ雰囲気が異なっている。宗教画は宗教的な厳粛さを狙うものだが、この作品は、厳粛さよりも美しさとか品格を強調している。それに応じるように、普通採用される「キリストの磔刑」という題名ではなく、「十字架上のキリスト」と題したわけであろう。

キリストの磔刑図といえば、ふつうは十字架に両腕でぶら下がるようにして、もだえる姿で描かれることが多いが、この絵の中のキリストには、もだえる様子は見えない。両足を台の上にそろえて乗せ、表情も静かさを感じさせる。まるで眠っているようにも見える。このように台の上に両足を乗せた構図は、同時代の画家スルバランの作品にも見えるので、あるいはそれに影響されたのかもしれない。

スルバランの作品もそうだが、この絵も漆黒の背景から浮かび上がるように描かれている。人物の造形に見る者の目をくぎ付けにする効果がある。その造形であるが、この絵の中のキリストは、理想的な人体を表現しているといえる。

(1632年頃 カンバスに油彩 248×169㎝ マドリード、プラド美術館)




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