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眠れるジプシー女:アンリ・ルソーの世界




「眠れるジプシー女(La Bohémienne endormie)」は、「戦争」とともにルソーの中期の代表作。1897年のアンデパンダン展に出展した。あいかわらずからかい半分の酷評が多かったが、好意的な評もあった。「ルヴュ・ブランシュ」誌には、ルソーの単純さを讃える評がのったが、それには当時のルソーの親友ジャリの意見が反映していたらしい。

この絵を描いた1897年には、息子のアンリ=アナトールが死んだ。娘のジュリアはアンジェの弟に預けたままで、ルソーは一人ぽっちになった。しかし落胆した様子は見せない。かえって制作に打ち込んだようである。

ルソーはこの作品を故郷ラヴァルの市役所に売り込んでいる。当時真剣に考えていたジョゼフィーヌとの結婚資金を稼ぐ目的だったとされる。売り込みの手紙の中でルソーは、絵の主題について説明しているが、それは、眠れるジプシー女のそばを通りがかったライオンが、彼女の匂いを嗅ぐが食べはしない、詩的な月のためだ、というものだった。結局ラヴァル市には買ってもらえなかった。

ルソー自身の説明のとおり、この絵にはライオンと月とが大きな役割を果たしている。ルソーはこの組み合わせについて、当時のサロンの大家ジェロームの作品「二つの威厳」からヒントを得たらしい。ジェロームの作品は、海上にかかる月に向いあうライオンを描いているが、ルソーはそれにジプシー女を組み合わせて、独特なイメージを作り上げたわけである。

(1897年 カンバスに油彩 129×200㎝ ニューヨーク、近代美術館)




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