壺齋散人の 美術批評
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エヴァ:アンリ・ルソーの世界




アンリ・ルソーにはジャングルを背景にした女性の裸体像が数点、現在に伝わっている。「エヴァ」をモチーフにしたこの絵は、その代表的な作品。旧約聖書の創成記から、エヴァにまつわる話を視覚化したものである。

ルソーの人物画としてはめずらしく、女性は正面を向いてはおらず、横向きに立っている。伸ばした右手の先には、木の幹に絡みついた蛇の頭がある。この木がリンゴの木であることは、樹上の枝にリンゴの実が多数ぶら下がっていることからわかる。

エヴァが蛇に唆されて快楽を覚えたために、それが人類の原罪につながったと聖書は書いている。聖書は、人間の罪は性欲から生まれたというふうに教えているのである。ルソーはその教えを自分なりに解釈して、この絵に表現したのであろう。

女性の体は豊満に描かれている。その豊満さはミケランジェロのそれを思いおこさせる。ミケランジェロの豊満な裸体には均整の美が宿っていた。ルソーのこの絵には均整は見られない。均整は視覚的なものだが、ルソーがここで追及しているのは精神的なものである。

(1904年頃 カンバスに油彩 61×46㎝ ハンブルグ美術館)




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