壺齋散人の美術批評
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サマータイム:ホッパーの世界




「サマータイム(Summertime)」と題されたこの絵は、ホテルと思われる建物の入り口に立った若い女性をモチーフにしたものだが、そこにホッパーはさまざまな意味を込めた。若い女性は、肌が透けてみえるようなシースルーのドレスを着ているが、これはこの時代の若い女性の開放的な気分を表している。この絵が描かれた1943年はまさに第二次大戦の最中であり、その限りでアメリカ人は戦争気分に浸っていたわけだが、その気分は暗鬱なものではなく、開放的なものだったのだ。1930年代には、大恐慌の影響でアメリカは沈み込んだいた。第二次大戦はそんなアメリカに、空前の好景気をもたらしたのだ。

そうした開放的な雰囲気は、開いた窓から吹き入れる風にカーテンがめくれあがっているところにも現れている。その風は若い女性にも吹き付けているのだろう。彼女のドレスの裾はやや乱れぎみで、一部は肌にまつわりついて、肌の色を露出させている。状況の解放的な雰囲気が、性的な挑発感を生んでいるのだ。

画面は非常に明るい。ホッパーの作品のなかでも、こんなに明るい画面はほかにないだろう。玄関の奥や、女性の作る影の濃厚さが、画面全体の明るさを一層強調する効果をもたらしている。

(1943年 カンバスに油彩 74.0×111.8㎝ デラウェア美術館)



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