壺齋散人の美術批評
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夏の夕べ:ホッパーの世界




「夏の夕べ(Summer Evening)」と題するこの作品は、奇妙な空間をモチーフにしたものだ。奇妙というのはほかでもない。ホッパーは、これより以前の作品では、ある閉じられた空間内にいる人々をモチーフにしていたのだったが、この作品では、閉じられた空間ではなく、といって開かれた空間でもない。その両極の合間にある空間である。ベランダは、外部から内部への境目にある。その境目に一組の男女を立たせたところにこの作品の特徴がある。

しかも、時間も昼間と夜との境目、すなわち夕べである。夕べとはいっても、画面から伝わってくるのは、建物の外の空間、つまり屋外空間が、闇に包まれているということだ。そんなわけで、彼らが立っているベランダのある家が、どんな背景の中に立っているかわからない。我々観客にわかるのは、闇の中に浮き出た一組の男女の姿である。

夏の夕べとあって、かれらは開放的な格好をしている。第二次大戦終了直後に流行ったスタイルということらしい。そういうところに時代を感じさせるように描くのは、ホッパーの時代観察者としての視点がうかがわれるところだ。

二人はなにかを語り合っているようである。しかし女の表情からは、性的な親密さは伝わってこない。男のほうも、愛の言葉を語っているようには見えない。二人はどこかよそよそしい。そこにホッパーの哀愁を見る見方もある。

(1947年 カンバスに油彩 76.2×106,7㎝ 個人蔵)



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