壺齋散人の美術批評
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ニューヨークのオフィス:ホッパーの世界




ホッパーはオフィスをモチーフにして繰り返し描いた。そのほとんどはオフィスの内部を、その内部の視点から描いたものだった。ところがこの「ニューヨークのオフィス(New York Office)」と題した作品は、外部から窓越しにオフィスの内部を描いたものだ。非常にユニークな視点なので、見ているものに強い衝撃を与える。

というのは、普通オフィスというものは、外部からは遮断されているところが、この絵の中のオフィスは、窓ガラスを通してではあれ、外部に向かって開かれているからだ。これではまるで、ショーウィンドウを覗いているようではないか。オフィスの空間に立っている女性はだから、事務員というよりは、マネキンを想起させる。

そのマネキンが、あのマリリン・モンローによく似ているのだ。マリリンが自殺したのは1962年のことで、ちょうどこの絵が描かれた年である。ホッパーがマリリンの死を意識しながらこの絵を描いたかどうか、それはわからないが、だいたい妻のジョーをモデルにしていたホッパーがマリリン・モンローによく似た女性をモデルにしたには、なにか事情があるのかもしれない。



これは、その女性の部分を拡大したもの。彼女は手紙に読みふけっているように見える。多分自分自身のなかに閉じこもっているのだろう。彼女の前のテーブルには電話の受話器が置かれている。この受話器が鳴れば、彼女は一躍現実世界につれもどされるというわけであろう。

(1962年 カンバスに油彩 101.6×139.7㎝ アラバマ州モンゴメリー、モンゴメリー美術館)



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