壺齋散人の 美術批評 |
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ペパーミントの瓶(Nature morte à la bouteille de peppermint):セザンヌの静物画 |
1894年には、セザンヌは何点かの静物画で実験的な試みをしているが、中でも「ペパーミントの瓶(Nature morte à la bouteille de peppermint)」と題したこの絵は、最も強い実験性を感じさせる。 静物画と言えば、普通は、静物が並んでいる、あるいは乗っている、台を強調するものだが、この絵では、台(テーブル)は大きなクロースに覆われて殆ど見えない。だから、瓶やフラスコ、フルーツといったモチーフは、あたかも空中に浮かんだクロースの上に並んでいるような感じを与える(そのわりには安定しているように見えるが)。 線の扱い方にも工夫が見える。背後の壁の窓や、一部覗いているテーブルが直線によって描かれているのに対して、モチーフでは曲線が強調される。しかもその曲線が極めてユニークな線を描いている。例えば、水を入れた大きなフラスコの輪郭は、左右が非対称だ。ペパーミントの瓶も歪んで見えるし、クロースの模様や襞も独特の線を描いている。こうした線は、対象をそのまま映したのでは、決して現れないものだ。セザンヌはこの絵で、形を自分なりに自由に解釈しなおしたのだと思える。 それは、壁の窓にもっともよく伺われる。よく見るとこの窓は、窓のようであって、窓を思わせるように引かれたただの線のようにも見える。窓というものは、外界の景色を示すものだが、ここには外界が全く示されていないのだ。 色の配置も独特だ。この時期のセザンヌとしては異様なほど寒色を多用している。背景の壁やクロースを寒色で塗りこめる一方、フルーツの暖色をそれに対比させることで、モチーフを劇的に浮かび上がらせる効果を追求している。 (1890-1894、キャンバスに油彩、65×81cm、ワシントン、国立美術館) |
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