壺齋散人の 美術批評 |
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羊飼いの礼拝:エル・グレコの幻想 |
「羊飼いの礼拝」は、エル・グレコが好んで取り上げたテーマである。ヴェネチア時代から晩年に至るまで、繰り返し描いている。中でもこの作品は、晩年の成熟期に描かれたもので、プラド美術館に所蔵されている最晩年のものとともに、エル・グレコの同一テーマによる宗教画の傑作とみなされている。 プラド美術館のものもそうだが、スペイン時代のこのテーマの絵はいずれも、縦長の構図で、夜の光景を描いている。この絵では、暗闇の中心にいるイエスから、聖なる光が放たれて、周囲を明るくする様子が描かれ、そこにキリスト誕生をめぐるドラマ性と聖なる感情の高まりを感じとることができるだろう。 中央のキリストを囲む形で、マリアとヨゼフ、そして四人の羊飼いが描かれ、その上部には三人のプットーたちが、空中をぐるぐると飛び回りながら、イエスの誕生を祝福している。羊飼いの一人は、そのプットーたちに手を差し上げて見せ、聖なる場面に立ち会った驚きと喜びを表現しているようだ。 また、画面の右下に、羊飼いたちがイエス・キリストの誕生を天から告げられる場面が、異時同図的に挿入されている。 聖マリアの足もとに白い子羊が横たわっているところは、このテーマの絵に共通している。このことで、イエスに向かって礼拝している人々が羊飼いであることを暗示しているのだろう。 この作品は、17世紀半ばから現在に至るまでバレンシアのコルプス・クリスティ学院に所蔵されているが、どのような経緯でそうなったかについては、明らかになっていない。 (1605年頃、キャンバスに油彩、136×116cm、バレンシア、コルプス・クリスティ学院) |
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