壺齋散人の 美術批評 |
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羊飼いの礼拝:エル・グレコの幻想 |
エル・グレコは、1612年から14年にかけて、トレドのサント・ドミンゴ・エル・アネィグォ聖堂の自分自身の墓所を飾る祭壇画を描いた。「羊飼いの礼拝」のテーマによるこの絵は、その中心となるものである。自分自身の墓所を飾るとあって、この作品へのエル・グレコの力の入れ方は相当なもので、他の作品のように工房の手を入れさせることなく、すべて自分の手で描いたと考えられる。 前に紹介したコルプス・クリスティ学院のものと比較すると、構図や色彩の面で大きな違いを指摘できる。人物の配置は、前作のものを180度反転させ、また人体のプロポーションは異常なほどに引き伸ばされている。手前に、後姿を見せている白いひげの老人は、エル・グレコ自身の自画像だろうと言われる。 色彩は、鮮やかな原色を多用する一方、強烈な明暗対比によって人物像を闇の中から浮かび上がらせる効果を強調している。その分背景はぼんやりとして、前作のようにこまごまと描かれてはいない。 「無原罪のお宿り」と並んで、エル・グレコの最高傑作とする評価が確立している作品だ。なお、これには現在ニューヨークのメトロポリタン美術館に縮小バージョンが所蔵されているが、そちらには工房の手が大幅に入っていると推測されている。 (1612年~1614年、キャンバスに油彩、320×180cm、プラド美術館) |
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