壺齋散人の 美術批評
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遣手婆:ゴヤの版画



(けっこうな忠告)

版画集「きまぐれ」には、遣手婆(セレスティーナ)が多くあらわれる。遣手婆の仕事は女の売春相手を斡旋することで、決して忠告などをすることではないが、この絵の遣手婆は、題名通りだと、若い女になにかしら忠告していることになっている。

娼婦に忠告も何もないだろうから、この遣手婆はこの娼婦の母親なのだろうという説が有力である。当時のスペインでは、自分自身が娘の女衒となって、売春させる母親が多かったらしいから。

それにしても、この二人のやりとりは、何やら珍妙な雰囲気を感じさせる。婆の方はまじめくさった表情をしているし、娼婦のほうもそれに応じて神妙な顔つきをしている。


(ぴったりよ)

この絵も、娼婦と遣手婆を描いたものとされる。婆の前で、一人の娼婦が右足を台の上に乗せ、ストッキングをはいているところのようだ。題名にあるとおり、このストッキングは「ぴったりよ」なのだろう。

「ぴったり」を意味するスペイン語の「ティラール」には、「引っ張ってぴったりさせる」のほかに、「やる」という意味も含まれている。そこから「やる女」と言う意味の「ティラーダ」という言葉が生まれたが、それは文字通り「娼婦」を意味する。

この絵には、言葉遊びも含まれているわけだ。真っ黒な背景から浮かび上がった二人の人物表現が秀逸だ。





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