壺齋散人の美術批評 |
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ナイトホーク:ホッパーの世界 |
「ナイトホーク(Nighthawks)」と題したこの作品は、ホッパーの代表作であり、またアメリカン・リアリズムの最高傑作といわれる。都会の安っぽいレストランの夜の光景を、スナップショット的に描いたものだ。タイトルの「ナイトホーク」とは、このレストランの名前ではなく、女と並んでカウンターに座っている中年男のとがった鼻を意味しているということらしい。店自体の名前は、建物上部の壁面に「PHILLIES」と書かれている。 ホッパーは、ジョーとの結婚後の一時期、とくに1920年代後半に、ジョーと一緒に画題を求めてあちこちを動き回り、そのたびにスケッチ類を残した。そのスケッチには、あとで本格的な絵に仕立て上げるさいに必要な情報が、ジョーによって記入されていたという。ホッパーはスケッチやそうした情報をもとに、この絵を仕上げたという。 レストランの明るい店内が、大きなガラス戸越しにみえる。桜材の大きなカウンターを囲んで三人の男女の客が座っており、カウンターの内側にはウェイターが仕事をしている。店内の灯は外部にまで漏れ、街路や向かい側の建物の一部を照らしている。その強烈な光がこの絵のポイントだ。光は人工の産物だが、その光に照らされた画面の人物たちは、どこかしら孤独を感じさせる。とりわけ左手の人物は、背中しか見せておらず、見る者とのコミュニケーションを拒んでいるように見える。 これは、右手の三人の人物の部分を拡大したもの。ウェイターが顔をあげて、中年男になにか話しかけているように見えるが、中年男はタバコを右手の指にはさみ、自分自身の内部に閉じこもっているようである。女のほうも、ウェイターを無視して、自分勝手な想像にふけっているように見える。こうした眺めからは、人間同士の親密さは伝わってこない。そこにホッパーは、アメリカの都市の匿名性を強く感じたのであろう。 (1942年 カンバスに油彩 76.2×144.0㎝ シカゴ美術院) |
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