壺齋散人の美術批評 |
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サウス・カロライナの朝:ホッパーの世界 |
ホッパーは、荒々しい自然の中にぽつんと存在する人工的な構築物を描くのを好んだ。「サウス・カロライナの朝(South Carolina Morning)」と題したこの絵は、果てしなく広がるビーチの中にぽつんと立っている小さな家と、その家の玄関にぽつんと立っている女性を描いたものだ。 ビーチの先に海岸線が見える。これはおそらくサウス・カロライナのどこかの海岸なのだろう。サウスカロライナの海岸線は、北東方向から南西方向に走っているので、どの海岸でも朝日をほぼ真正面から受ける。この絵では、光は海のほうからさしている。おそらく実景なのだろう。 家は画面の左半分に描かれ、その中心に女が立っているのだが、この絵のポイントというべきその女が、画面のかなり左寄りに偏っているおかげで、見る者はやや視線の固定にためらうところだろう。女は赤いワンピースを着て、黒いサンダルを履いているので、おのずから浮き上がって見える。それが画面の端のほうに偏っているので、見る者の視線はそこにまず集中する。そのあとで、青い空とか茫洋たるビーチの眺めに視線を泳がすことになる。 女は今ちょうど外に出かけようとしているように見える。にもかかららず、その姿勢は、腕を組んだりして動こうとするもののものではない。そんなところにも、この絵がわざと不安定を押し出していることが感じられる。ホッパーは、安定とか均衡よりも、不安定な雰囲気を好んだといえる。 (1955年 カンバスに油彩 76.2×101.6㎝ ニューヨーク、メトロポリタン美術館) |
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