壺齋散人の美術批評
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サン・イシードロの牧場:ゴヤの風景画




「サン・イシードロの牧場( La pradera de San Isidro)」と題されたこの作品は、パルド宮殿を飾るタペストリーのための下絵として制作された。パルド宮殿は、時の国王カルロス三世の離宮である。ゴヤは、1786年にカルロス三世の国王付き画家に任命され、その仕事の一環としてパルド宮殿のタピストリー制作にかかわった。ゴヤはその下絵をいくつか描いており、この作品はその一つである。

サン・イシードロの牧場とは、サン・イシードロの祭りが催されている牧場という意味。サン・イシードロはマドリードの守護神で、毎年5月15日がその祭日にあたっている。その日、マドリード市民は、貴賤をとわず、マンサナーレス川沿いの牧場に集まって野遊を楽しんだ。この絵は、その野遊の様子を描いたものである。

画面中央にマンサナーレス川が流れるさまを描き、その向こう側にはマドリードの市街が、手前側には、牧場に集う人々が描かれている。前景には着飾った貴族たちの男女が、華やかな雰囲気に描かれ、中景には、おびただしい数の庶民が描かれている。

壮大な眺めをモチーフにしているわりには、小さな画面に収めているので、タピストリーとして成功するかどうかあやういところを感じさせる。この絵が、タピストリーとして完成することはなかった。

(1788年 カンヴァスに油彩 44×94㎝ マドリード、プラド美術館)



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