壺齋散人の 美術批評
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黒い羽毛の帽子(Der schwarze Federhut):クリムト





1909年はクリムトにとっての転換の年になったといわれる。この年の展覧会で見たマティスやムンクの絵から、彼はそれまでの自分の絵が時代遅れになったのではないかとの深刻な悩みに直面し、絵画の様式の転換の必要性を強く意識するようになる。そこから彼なりの試行錯誤が続き、晩年の華やかな作品群が生まれたといえる。

1910年の作品「黒い羽毛の帽子(Der schwarze Federhut)」は、そうした試行錯誤の一端を物語るものだ。この絵にはトゥールーズ・ロートレックの影響が指摘されている。それまでの、金色を豊富につかった装飾的な絵とは正反対で、色調といい、構図といい、ロートレックに似ていなくはない。

しかし、筆者などは、エゴン・シーレの影をこの絵の中に見てしまう。シーレは、1907年ごろクリムトの前に現われ、どちらかというと、一方的にクリムトの感化を受けたというふうに考えられているが、この天才的な若い画家に対して、クリムトのほうでも刺激を受けたといえる。ダナエなどに、そうしたシーレらしさがすでに現われていたが、この作品にはシーレ的なものが前面に出ている。



これは、モデルの顔の部分を拡大したもの。それまでのクリムトの女性がもっていた妖艶な雰囲気は感じられず、どちらかというと男性的で知的な雰囲気を感じさせる表情だ。

(1910年 カンヴァスに油彩 79×63cm 個人蔵)




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