壺齋散人の 美術批評 |
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アダムとイヴ(Adam und Eva):クリムトのエロス |
クリムトは55歳の若さで死に、多くの未完成作を残した。「アダムとイヴ(Adam und Eva)」と題するこの作品もその一つである。テーマは聖書にあるアダムとイヴの物語らしいが、絵からはそのようなイメージは伝わってこない。イヴはクリムトの作品に出てくる他の女たちとほとんどかわらないし、アダムのほうはあまり存在感を感じさせない。 裸体のイヴ(それ以外のイヴは考えられないが)が、正面を向いて観客のほうに目配せしている。その背後に裸体のアダムが控えるように立っているが、その表情はうつろで、イヴを抱くわけでもなく、ぼんやりとして見える。アダムとイヴの組み合わせでは、アダムのほうにもっと存在感があるはずなのに、この絵の中では、アダムはただの添え物のような扱いを受けている。アダムとしては、不本意に違いない。 二人は暗黒に塗りつぶした背景から浮かび上がって見える。エデンの園らしいところは、イヴの足元に描かれた花のほかには伺われない。その花も、花園というには程遠い。クリムトはアダムとイヴのテーマを借りて、彼なりのファム・ファタールを描いたのではないか。 未完成の作品なので、イヴの両手はまだきちんと描かれていない。そのほかの部分にも未熟なところが多いが、全体の雰囲気はすでに表に出ているといえよう。 これは、二人の上半身を拡大したもの。イヴのしっかりとした視線と、アダムの朦朧とした表情とが著しい対照をなしている。イヴの左手は、上腕部の輪郭や指先が不明瞭のままだ。 (1918年時点未完成 カンヴァスに油彩 173×60cm ウィーン 国立オーストリア美術館 ) |
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