壺齋散人の 美術批評
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抵抗もむなしく:ゴヤの版画



(その連中のためでもない)

これはフランス兵によって陵辱されるスペイン女たちを描いたもの。女たちはフランス兵相手に戦いを挑んだものの、あえなく敗れてこのような目にあっているのだろう。前出の「やはり野獣だ」に描かれた場面の続きだとみれば、わかりやすい。

そう受け取れば、左手前に転がっている小さな子どもは、女が腰に抱いていた子どもだということになる。この子どもの表情には生き生きとしたところがないから、すでに死んでいるのかもしれない。母親のほうは、フランス兵に仰向けのまま引きずられ、このあと殺されるか、あるいは強姦されるか、いずれにせよまともな事態は待っていないだろう。

背後の女にはフランス兵が襲いかかり、押し倒そうとしている。これは強姦される一歩手前といったところか。勇敢に戦ったスペイン女には、このように抵抗もむなしく、屈辱的な結末が待っている場合が多かった。なにしろ、軍事力という点では、当時のスペインはナポレオンのフランスには全く太刀打ちできなかったのである。

なお、題名の「その連中のためでもない」は、いまひとつ意味がわからない。


(そのためにお前たちは生まれたのだ)

これはフランス兵に粉砕されて、累々と横たわったスペイン人の死体だ。ひとりだけまだ生きている者がいるが、この男は両腕をもがれ、口からは血を吐いている。死体になるのは時間の問題だろう。

この血を吐く男の表情といい、死んで横たわった者たちの無念な顔つきといい、戦争の残酷さがストレートに伝わってくる。

題名にある「そのためにお前たちは生まれたのだ」は、お前たちはこのように殺されるために生まれてきたのだ、という意味だろう。そうだとすれば、この作品は暗澹たるペシミズムにいろどられている、と言うことができよう。





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