壺齋散人の 美術批評 |
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ベラスケス:最後のバロック大家 作品の鑑賞と解説 |
ディエゴ・ベラスケス(Diego Velazquez 1599-1660)は、スペイン最初の偉大な画家であり、また世界美術史上に屹立する巨匠である。様式分類上は、バロック美術の巨人ということになる。強烈な明暗対比とリアルな画風は、バロック美術の完成であるとともに、近代絵画を予感させるような先駆性を内在している。 |
ベラスケスは、画家としては作品数が少なく、今日に伝わるのは120点ほどにすぎない。18歳で画家として自立して以来61歳で死ぬまでの、40年以上の期間にしてはたしかに少ない。それは彼の生涯の特殊性を反映している。かれは24歳にして、スペイン国王フェリペ四世に気に入られ、宮廷画家となって以来、生涯を宮廷画家として、また王の側近として過ごした。その職務は、単に王室のために絵を描くにとどまらず、側近としての公務に忙殺された。したがって、絵の制作に専念できなかったのである。その絵の制作にしても、宮廷画家として、王室のメンバーの肖像を描くことが中心だった。今日伝わる彼の傑作のほとんどは、「ラス・メニーナス」を始めとして、そうした肖像画が占めているのである。 ベラスケスは、スペイン南部の古都セビーリャで生まれた。父親は改宗ユダヤ人だったらしい。12歳でフランシスコ・パチェーコに弟子入りし、18歳にして画家組合に登録された。パチェーコは、画家としては凡庸だったが、ベラスケスの才能を見抜き、自分の娘を嫁として与えたほか、陰に陽に援助した。後にベラスケスの伝記を書いてもいる。 ベラスケスの画家としてのキャリアは、当時スペインで流行していたボデゴン(厨房画)といわれる一種の風俗画を描くことから始まった。ボデゴンというのは、厨房など卑近な場所を背景にして、人物の動きをスナップ風に描くものである。それはまた人物の詳細な描写を通じて、後にベラスケスが得意とする肖像画につながっていく。ベラスケスはなんといっても肖像画家なのである。 24歳のときに、王の側近オリバーレス公爵の知遇を得て、フェリペ四世の肖像画を描いたところ、王はそれをたいそう気に入り、それがきっかけで、ベラスケスは王付きの画家に抜擢された。以来死ぬまで、ベラスケスは宮廷画家としての生涯を送り、また王の側近としての公務を果し続けけるのである。 そんなわけで、ベラスケスの生涯には、目だったことがらが少ない。特筆すべき出来事としては、1529年の秋から一年あまりイタリアに旅行したこと、及び1549年から約二年間にわたり再度イタリアを訪問したことだ。二度目の訪問は、宮廷や離宮を飾るための美術品の収集が任務に加えられていた。 一度目の訪問では、イタリア美術を大いに学んだ。このときの研究が功を奏して、ベラスケスの画風は大いに洗練された。ボデゴンの泥臭い画風を克服し、明るくしかもメリハリのある画面へと変化した。しかも明るさのうちには、強烈な明暗対比がある。時代をリードする巨匠の風格を身に着けたといえる。 最初のイタリア旅行から戻ったベラスケスは、王室のメンバーの肖像画や、フェリペ四世の功績をたたえるための作品を制作した。この時期の代表作は、フェリペ四世およびカルロス皇太子の騎馬像であり、またブレダの開城を記念した歴史画であった。ブレダの開城は、スペインの対外戦争における勝利を記念する事件で、フェリペ四世最大の武勲とされる。 ベラスケスの画家としての活動は、イタリア旅行から戻って以来の約十年間が最も充実した時期で、晩年に近づくほど、制作に割ける時間はなくなっていった。それでも王室メンバーの肖像画を始め、数々の傑作をものにしている。 フェリペ四世は、アルカーサル宮殿のほかに、マドリード東部のレティーロと呼ばれる離宮や、北部郊外の狩猟の塔といった離宮を造営し、そこを数々の美術品で飾った。ベラスケスの作品もそこに飾られた。上述の肖像画などもそのために制作されたものである。 晩年のベラスケスの代表作は、マルガリータ王女の一連の肖像画である。この王女は、フェリペ四世が後妻に迎えた姪のマリアナ王妃との間に生まれた子で、生来虚弱だったといわれる。生まれながらにして、オーストリア・ハプスブルグ家のレオポルド一世と婚約させられた。そんなこともあって、彼女の肖像画は、成長記録としての意味を持たされて、レオポルド一世に贈られた。それらの作品は、今日もウィーンにある。 ベラスケスによるマルガリータ王女の肖像画が、今日8点伝わっている。いずれも傑作だが、なかでも「ラス・メニーナス」は、世界の美術史のマスターピースである。この作品は、絵画としての卓抜さとともに、思想性をも感じさせる。その思想性の部分を、著名な哲学者ミシェル・フーコーが(主著「言葉と物」の中で)分析してみせたことは有名である。 ここではそんなベラスケスの代表的な作品を取りあげて、鑑賞しながら適宜解説・批評を加えたい。(上の絵は、「ラス・メニーナス」中のベラスケスの自画像」 卵を料理する老女と少年:ベラスケスの世界 マルタとマリアの家のキリスト:ベラスケスの世界 東方三博士の礼拝:ベラスケスの世界 セビーリャの水売り:ベラスケスの世界 フェリペ四世の肖像:ベラスケスの世界 バッカスの勝利:ベラスケスの世界 ウルカヌスの鍛冶場:ベラスケスの世界 ヨセフの長衣を受け取るヤコブ:ベラスケスの世界 ヴィラ・メディチの庭園:ベラスケス バルタサール・カルロス皇太子と矮人:ベラスケスの世界 十字架上のキリスト:ベラスケスの世界 ブレダの開城:ベラスケスの世界 フェリペ四世騎馬像:ベラスケスの世界 バルターサル・カルロス皇太子騎馬像:ベラスケスの世界 フェリペ四世の肖像:ベラスケスの世界 フアン・マルティネス・モンタニェース:ベラスケスの世界 パブロ・デ・バリャドリード:ベラスケスの世界 バリェーカスの少年:ベラスケスの世界 道化カラバシーリャス:ベラスケスの世界 マルス:ベラスケスの世界 フラガのフェリペ四世:ベラスケスの世界 ディエゴ・デ・アセード:ベラスケスの世界 教皇インノケンティウス十世:ベラスケスの世界 鏡のヴィーナス:ベラスケスの世界 マリアナ・デ・アウストリア:ベラスケスの世界 フェリペ四世胸像:ベラスケスの世界 白いドレスのマルガリータ王女:ベラスケスの世界 ラス・メニーナス:ベラスケスの世界 アラクネの寓話:ベラスケスの世界 八歳のマルガリータ王女:ベラスケスの世界 皇太子フェリペ・プロスペロ:ベラスケスの世界 |
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